「いやあ、素晴らしい絵ですね。
さぞや、名のある方の作品で・・・」「いえいえ、がらくたです。
お恥ずかしいかぎりで・・・」これでは、その場の雰囲気は固まる。
相手は恥じ入っているふうだが、じつのところは、「鑑識眼もないのに、馬鹿じゃなかろうか。
こいつは軽い人間だな」と思うに違いないのである。
装飾品を話題にするなら、率直に間くのもいい。
墨蹟も鮮やかな書など、読めるわけがないのだ。
だったら、「あの書はなんと読むのでしょうか」と間いて、その後の話題につなげていくのが得策というものである。
ビジネスは、名刺の交換からスタートするといってもいい。
それだけに、ここでマナー知らずと認識されてしまうことは絶対に避けたい。
何度となくやっていることとはいえ、意外な落とし穴がないともかぎらない。
あらためて名刺の完全マナーを正確に身につけて欲しい。
名刺交換では、「目下の者から先に」「訪問先では訪問した側が先に」名刺を差し出すのが原則である。
例えば、部下をともなって取引先を初めて訪問したケースでは、まず、自分が自己紹介をし、先方のいちばん上位の人間に名刺を差し出す。
これは先方が応接室に入ってくる場面を見ていればたいがいはわかる。
係長がドアを開け、まず部長が入室。
次いで課長が入室して、係長がドアを閉めながら入室する。
おそらくこの順番は変わらない。
つまり、最初の入室者がそのグループのなかでいちばんエライ。
と見てまず、間違いはないのである。
「いつもお世話になっております。
営業課長のEでございます。
よろしくお願い申しあげます」口上はこんなところだ。
同様に、先方の上位者から下位者へと名刺を交換していけばいい。
その後、部下の紹介となる。
「弊社の係長をしております、織田でございます」。
部下も同じ手順で名刺交換をする。
先方の名刺をもらうときは、まず右手を出し、左手を添えて必ず両手で受け取る。
名刺は相手の人格の一部という想いで、大切に扱うのが鉄別である。
いざ、先方が入室してから名刺入れを探るのはスマートとはいえない。
前もって必要な枚数を出して内ポケットに入れておく準備が必要だ。
「忘れない工夫」が第一印象を決める先方の名刺は肩書きと名前を言い間違えないように、面談中は席順に倣ってテーブルの上に置いておくというのが一般的である。
しかし、相手が大人数ならともかく、2人、3人の場合は肩書き、名前を記憶してポケットにおさめてしまうほうがいいかもしれない。
そのくらいのことが覚えられないようでは、ビジネスを有利に進めることもできないのではないミOAU先方にユニークな名前の人間がいたら、それを話題にするのも手だ。
「H(そえじま)部長は九州でいらっしゃいますか。
このお名前は九州に多いと聞き及んでおりますが・・・」そんなことからしばし、会話がはずむということはある。
名前はかなりの情報源なのである。
対外的な仕事は最初、現場の担当者レベルで始まる。
その後、交渉が煮詰まってくると、決裁権のある課長や部長などを紹介されることもあるはずだ。
たとえ一兵卒であっても、他社の人間との面談の際は、自社を代表しているわけだから、応対の仕方いかんでは、自社の看板に泥を塗ることにもなりかねない。
ここは心しでかからなければいけない。
「御社ではずいぶん新製品を出されていますね。
現在、どのくらいの種類を扱っているのですか?」先方の部長からそんなご下間があったとき、にわかに答えられないようでは困る。
例えば、オークラの営業マンが、館内レストランについて間かれ、「中華料理の桃花林、フレンチのラ・ベル・エポック、鉄板焼のさざんか、ええと、名前をちょっと失念いたしましたが、飲茶料理もございます」などと応えたら、先方はホテルを利用する気になるだろうか。
館内レストランも満足に覚えていない営業マンを、平気で顧客のもとに赴かせるようなホテルの質は推して知るべし。
料理もサービスも期待できないと踏むのが、自然の流れというものである。
もちろん、実際にはオークラにそんなわきまえのないスタッフはいない。
としてあげたまでだから、誤解のなきようお願いする。
製品と同時に、自社の組織の概略も押さえておくべきである。
先方からはどのような質問が出てくるかわからない。
自分が答えられる範囲を超えた質問が出た場合、組織を知っておかないと応対に窮する。
「この製品の素材は、御社で開発されたものだそうですね。
かなりご苦労があったのでしょう?」などというとき、「さあ、私は営業ですからそのあたりのことはちょっと・・・」ではあまりに心許ないではないか。
やはり、「それは開発部のAという人間が中心に開発いたしました。
私では詳しいことはわかりかねますので、後ほどAからご連絡をさせるようにいたします」と、こうでありたい。
私もお客さまからの問い合わせを現場の担当者につなぐことがある。
しかし、必ずフォローはする。
担当者にどのような説明をしたかを報告させ、件のお客様に連絡を取るのだ。
「先ほど担当のIからご説明させていただきましたが、おわかりいただけましたか?まだご不明の点がありましたら、Iに確認させますが・・・」という調子である。
ここまでやって初めて応対は完了する。
ホテルオークラ初代社長、Nの芝居また、自分の立場、役割を考えることも必要である。
オークラの初代社長を故Nさんがしていたとき、こんなことがあった。
Nさんの知人のお嬢さんが結婚式を挙げることになり、その知人がNさんのもとに挨拶にくるということになった。
挨拶の眼目は料金のディスカウントだと読んだNさんは、私にその旨を伝えた。
私は先方に出した見積りをにらみ、ディスカウント可能な個所をチェックした。
そして、Nさんにここは社長権限で値引きOKと赤字を入れた見積りのコピーを渡したわけだ。
さて、当日、知人を迎えたNさんは私を呼びつける。
「わざわざおいでいただいているわけだし、Hクン、このあたりはもう少しサービスさせていただけないのかね」Nさん、値引きOKの赤字が入った個所について私に聞く。
迫真の演技だ。
そこで私は、「それでは、この部分のお値段はこのようにさせていただきます」とやる。
と、Nさん「このあたりはどうかね?」とくる。
「社長がそうまでおっしゃるなら、このようなお値段に・・・」と、これは私だ。
なんのことはない。
ハナから値引きOKなものを、もったいをつけてひと芝居打っているわけだが、これで先方は、「さすがにNさん、たいしたものだ」と得心する。
最初から私が「これこれのお値段でやらせていただきます」とやったのでは、社長の威厳、メンツというものが立たない。
こんな芝居の片棒を担がされたことがしばしばあったが、そのなかで立場、役割のなんたるかを教えられたのである。
今、自分がどんな立場で、どのような役割を果たすべきか。
対外交渉では常にそのことに想いを致さなければいけない。
いったことはなくなる。
「時間を問わず」ということなら、今だったら、メールでやりとりするのもいいだろう。
わずかな手間を惜しんで、何度も電話をかけ直すことになるよりはずっといい。
突然、受話器の向こうから、当然ながら流暢な英語が間こえてきであせるようでは困る。
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